高齢化が進行する日本社会において、厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室は、1951年には82.5%ほどであった自宅での看取りが、現在は12.4%にまで減少し、かわりに病院での死が78.4%にまで増加して健全な保険制度の運用を圧迫している現状を報告し(「在宅医療最近の動向」2012年7月)、地域包括ケアシステムにより、自宅での高齢者ケアに回帰する政策を発表した。また、「平穏死」に関する書籍がベストセラーになるなど、高齢者の「死の質(Quality of Death)」が問う機運が高まってきている。
しかし、こうした社会の変革に対する阻害要因が多々あることが知られている。
三浦久幸、大田壽城「高齢者の終末期医療:倫理ジレンマを乗り越えるために」(日本老年医学界雑誌 44巻2号(2007:3)pp.163-164)が、平成16年および17年の厚生労働省・長寿科学総合研究事業および長寿科学振興財団・国際共同研究事業の研究成果として発表した国際比較によれば、日本には「ホームドクター」制度がないこと、リビングウィルの活用の法制化がおこなわれていないこと、人工呼吸器・人工栄養の停止が法的に認められていないこと、終末期医療に関する法定代理人制度がないこと、などの法的整備の必要も含む厳しい状況にあることがわかる。この結果、高齢者の医療現場では他者決定が一般的になり、治療を打ち切って病院から出るという選択肢が事実上与えられずに病院での死を迎える人が多くなっている。
このような状況下において、自らの死に関しての患者の自己決定を促進するにはどうしたらよいか。鈴木亘「終末期医療の患者自己選択に関する実証研究」(『医療と社会』vol.14, no.3, pp.175-189)に報告されている、持病をもつ高齢者への調査が明らかにするところによれば、リビングウィルや事前指示書の作成を促進するためには、終末期医療の自己負担率をあげることによる経済的インセンティブよりも、「リビングウィル等の実効性の保証」「緩和ケアやホスピスの確保」「終末期認定の厳密化」「十分な病状説明と告知」などが有効なことがわかった。
一方、小楠範子「高齢者の終末期の意思把握としての回想の可能性」(『日本看護科学会誌』Vol.28, No.2, pp.46-54, 2008)には、高齢者にリビングウィルを書かせたとしても、従来の書式では「選択の結果だけがわかり、選択の理由までは読み取れない」ために、「リビングウィルの結果だけではケアの工夫に生かせない限界」があるという指摘もある。
初年度の要件定義の過程を経て、本研究が目標とするシステムの場合、終末期の近くなった患者(特に高齢者)に対しての支援よりも、それ以前の段階でアドバンス・ケア・プランニングとして取り組むほうが効果的であることがわかってきた。また、法的に有効な文書を厳密に作成することを支援するのではなく、終末期に関わる話題に関する反応や意見を幅広く記録しておき、実際に終末期に入ったときに、本人あるいは成年後見人、医療・ケア従事者が、本人の意思決定の支援ができるように情報提供する方向にシステムの射程を修正した。
これを受けて、作成したプロトタイプシステムは、
という構成で作成し、試用実験を行った。
このWebサイトでは、研究の過程で集められたデータを元にしたふたつの情報検索サイトを公開する。